入居者募集について(初めて賃貸運営を行うオーナー様向け)
1棟もののアパート・マンション、区分マンション、戸建住宅などの収益用不動産(収益物件)に空室が発生した際に、どのようにするべきかについて書きます。内容は、主に中古の1棟マンション、アパートを購入された方向けです。
1.退去後における部屋の状況確認と修繕費の精算、リフォーム
故意または過失により損耗したと認められる箇所については修繕費を精算します。東京都内の物件では「東京ルール」が適用され、日焼けによる壁紙の変色などの自然損耗に対する修繕を行う場合はオーナー様の負担になります。
次の入居者を募集する際に利用する不動産会社を決めている場合は、その不動産会社からリフォーム業者を紹介してもらうことも可能です。
管理会社を介在させていない場合の精算は、オーナー様が自ら行う必要があります。敷金の預かり証と交換に現金をお返しするのですが、 入居者の故意または過失により損耗したと認められる箇所に対する修繕費は預り敷金から精算する不動産会社が多いです。
この点について「敷金はあくまでも家賃の未払い分を担保する性質の金銭であることから、敷金は全額を返金するべき。差し引けるのは未払い賃料だけである。」とする見解があります。個人的な考えですが、これは「書生の法律論」であると考えます。法律論としては確かに正当ですが、敷金を一旦返金すると、後から修繕費を請求しても支払いに応じない方が大半です。このため、実務上は敷金から差し引いて精算する不動産会社が大半です。
2.募集条件の検討
専任媒介または専属専任媒介による客付けを依頼する場合は不動産会社と相談して決めても構わないのですが、複数の不動産会社に一般媒介による客付けを依頼する場合は、オーナー様において予め決めておくことをお勧めします。
2-1.普通賃貸借契約か定期賃貸借契約か
普通賃貸借契約を締結した場合、借主を退去させる場合には貸主側に正当事由が必要です。貸主が一方的に退去を通告し、退去させることは借地借家法に反する行為になります。
近隣の方に迷惑となる大音量の音楽を流す、夜間に騒ぐ等のトラブルを起こす、いわゆるトラブルメーカーでの場合でも、迷惑の程度が余程高くなければ退去させることは容易ではありません。契約更新時期が到来していても、更新時期であるだけでは退去を迫ることは認められません。
しかし、定期賃貸借契約では契約期間が満了すれば直ちに退去させることが可能です。トラブルメーカーである場合は契約期間の満了をもって退去させることが可能になります。契約期間が満了した後も入居者が継続して居住を希望する場合は定期賃貸借契約の再契約で対応出来ます。
定期賃貸借契約を取り扱った経験がない不動産会社が多いことから、何らかの理由を付けて「普通賃貸借契約にしてください」とか「定期賃貸借契約では入居者がなかなか決まりません」などと言われるかもしれません。しかし、 定期賃貸借契約による契約を希望するオーナー様が次第に増えている感があります。契約期間が満了すれば、トラブルメーカーを退去させることが可能になるからです。
契約期間は地域毎の慣習に従うことをお勧めします。東京都内の住宅では2年、店舗・事務所では3年とするのが一般的です。
2-2.家賃および共益費の金額
賃貸アパートおよびマンションの家賃は部屋の広さで決まります。近隣の家賃相場(単位面積当り)を調べ、これに見合う家賃を定めます。家賃相場に関する情報を提供するサイトは数多くありますのでここでは取り上げませんが、ネット検索によりすぐにわかります。
新築、ペット飼育可の物件、特徴のある設備(防音室など)を備えている物件では、家賃(または家賃と共益費との合計)を家賃相場の1~2割程度増額した金額にしても構いません。それ以上に増額すると、空室期間が長期化する恐れがあります。
共益費を徴収する場合は、家賃と共益費との合計が家賃相場に見合う金額になるように調整します。共益費は、必ず徴収しなければならないものではありません。敷金および更新料は家賃をベースとして計算され、共益費を含めない方がオーナー様の収入増加に寄与しますので、徴収する金額の全額を「家賃」として収受し、「共益費なし」とするオーナー様が多くいらっしゃいます。
2-3.敷金、礼金の金額決定
いずれも地域の慣習に従います。東京都区内の場合、敷金1~2か月・礼金なしの物件が多いです。しかし、下町といわれるエリアでは敷金ゼロ、礼金ゼロにしている物件が多数あります。
東京都内の物件では、仲介手数料を物件賃料の1か月分に設定しているところが大半です。宅地建物取引業法は家賃の0.5か月分を上限としていますが、入居者の同意があれば1か月分を徴収しても構わないとされています。なお、仲介手数料について適用される慣習はエリアによりかなり異なります。
2-4.鍵の保管方法
現地対応にするか、不動産会社の立ち会いにするかを予め考えておきます。
現地対応の場合はキーボックスに入れ、部屋のドアノブにぶら下げる、郵便受けやメーターボックスに格納する等の方法が一般的です。なお、鍵を裸の状態、または封筒に入れて郵便受け内に置くことは防犯上の観点から避けるべきです。郵便受け内に不用意に置かないよう、不動産会社に伝えることをお勧めします。
鍵を不動産会社に預ける場合、内見を実施する客付け会社に鍵を受け取りに来させ、内見が終わり次第鍵を返却してもらう対応をする不動産会社があります。しかし、鍵の受領および返却に手間がかかることから客付け会社が当該物件を積極的に紹介してくれないことがよくあります。
「立ち会い」による内見を実施してくれない(大手不動産会社に多い)場合は、現地対応にして貰うことが早期の客付けにつながります。
2-5.その他
入居をお断りする方(例えば賃貸期間が6か月未満である短期貸しの方、賃貸保証会社が保証契約の引き受けを拒否した方、民泊として利用する目的の方など)、損害保険(加入を義務づけたい場合)の加入確認、入居時期の確認等について決めておきます。なお、損害保険の会社や保険の種類をオーナー様、不動産会社、管理会社が決めることは保険業法で禁止されています。
3.不動産会社への客付け依頼
上述した検討内容を不動産会社に申し出て、客付けを依頼します、媒介契約書への署名および捺印を求められたら署名および捺印をします。
間取り図がある場合は、持参していただけると物件紹介図面の作成を早く行えます。早期の客付けに有効なので強くお勧めします。
管理業務を委託している管理会社が宅地建物取引業者である場合は、この会社に専属専任媒介または専任媒介による客付け依頼を行うのが一般的です。
それ以外の場合は一般媒介で依頼しても構いません。ただし、都内の賃貸物件における募集方法はレインズおよびポータルサイトへの掲載によることがほとんどであり、多くの不動産会社に依頼すれば入居者が早く決まると思われる方が多いのですが、仮に一般媒介を5社に依頼するとポータルサイトに同じ物件が5件掲載されることになります。すると、ポータルサイトを見た方は「何らかの理由があることから空室が埋まらない物件かもしれない」と考えることから、入居先の候補から外される恐れがあります。
このため、一般媒介による客付けを依頼する場合は多くても2~3社程度にとどめておくことを強くお勧めします。
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