不動産売買契約を締結後、取り消す際は手付金の放棄のみでは済みません
住宅や収益用不動産を購入したいとお考えの方が不動産会社の仲介により売主と不動産売買契約を締結しました。その後、ローン契約(金銭消費貸借契約)の締結について金融機関が承認したことから残金の支払いと物件の引渡(決済)とを行うことにしていました。ところが決済日の1週間前になり、買主が「遠隔地への転勤が突然決まったので売買契約を取り消したい。」と言ってきました。
買主は、「転勤になることは全く想定しておらず、勤務先から突然命令されたので自分に落ち度はない。契約書には手付金を放棄すれば契約を取り消せる旨が記載されているので、手付金を放棄して終わりにしたい。」と主張しています。このような場合に、どのような対応になるかという問題について考えます。
契約取消の理由が転勤である場合、確かに買主における落ち度がない場合が多いです。買主の中には手付金の放棄すら納得できないと主張する方が多くいらっしゃいます。
しかし、購入の申込があった時点で売主は売却活動を中止することから、決済が出来ないことにより「売却機会の損失」という不利益を被ります。不動産会社は購入希望者に対しこのことを説明し、売買契約を取り消す際には手付金を放棄するように要請することになります。
手付金の放棄だけでは済まない
東京都区内の不動産売買における手付金の相場は、物件価格の5~10%とされています。最近は、多くの物件において5%とされています。
「これを放棄すれば取消せる」と思うのは早合点です。確かに手付金を放棄すれば不動産売買契約を取り消せるのですが、仲介を行う不動産会社との関係では「媒介契約」が存続していることから仲介手数料の支払いが必要になります。
このような場合における仲介手数料の金額については争いがありますが、福岡高判平15.12.25は、宅地建物取引業法が定める上限の手数料(400万円以上の場合は3.3%プラス6.6万円)の半額が相当であると判示しています。
不動産売買における実務では、慣習として仲介手数料の半額を契約時に徴収し、残額を決済時に徴収する不動産会社があります。上記の判例は、この慣習を踏襲していると言えるかもしれません。
また、手付金の放棄による契約の取消については、民法557条第1項が「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と定めています。売主が物件を引き渡すために賃貸物件に引っ越した、買主が希望するリフォームの一部を売主が行った等の事情がある場合は手付金の放棄では済まず、違約金の支払いが必要になることがあります。違約金の相場は物件価格の10~20%とされており、手付金よりもかなり高額です。
不動産売買契約の取消は、手付金の放棄のみでは済みません。
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