不動産会社を利用せず、不備が多い契約書を作成したことによる悲劇
1棟もののアパートを経営しているお客様から以下の相談を受けました。
- 3LDKの部屋が空室になり、近くの不動産会社に入居者募集を依頼したが半年以上入居者が決まらず困っていたところ、部屋を探しているという若夫婦が訪問してきた。
- 内見後、「仲介手数料を節約したいので不動産会社を通さないで契約したい。連帯保証人になってくれる人がいないので連帯保証人は立てられない。」と言われた。
- 不動産会社を利用しないと賃借人と賃貸保証会社(家賃保証会社)との間の保証契約を締結してもらえない。連帯保証人がいないなら保証契約を締結して欲しいが、入居希望者は「不動産会社を利用するなら入居しない。」と強硬に主張する。
- 大手一流企業の正社員であると言い、名刺を提示された。入居者が長期間決まらずに困っていたこともあり、信用して入居を認めることにした。
- 書店の文房具コーナーで賃貸借契約の用紙を購入し、契約を締結した。名刺に記載されている勤務先に対する在籍確認はしなかった。敷金、礼金および前家賃の支払を受けたので、部屋の鍵を渡した。
- 約2週間後、他室の住人から「いかにもヤクザを思わせる、ガラの良くない数名の男が出入りしている。さらに大型の照明装置やストーブを何台も持ち込んでいるところを見た。怖いので何とかして欲しい。」と言われた。
- 水道の検針員から「一般家庭における通常の使用量の10倍を超える水が使用されている。調べた方が良い。」と言われた。
- 「水道の利用量が異常なので配管を調査したい。」と部屋にいる者に伝えたところ、「理由が何であれ、部屋への立ち入りは絶対に断る。水道料金の問題であれば支払はキチンと行うので問題ない。」と言われた。
- 得体の知れない輩を追い出して欲しい。
このオーナー様が希望する内容は、「得体の知れない転借人を追い出して欲しい」というものです。このオーナー様は不動産会社を通さずに賃貸借契約を締結する等、致命的な間違いを何回も繰り返しています。以下、間違いについて説明します。
その1:不動産会社を利用しないで契約を締結したこと
不動産会社を通さずに賃貸借契約を締結したことが全ての間違いの始まりです。若夫婦から「仲介手数料を節約したいので不動産会社を通さないで契約して欲しい。」と言われても、動機を素直に信じてはいけません。
若夫婦または単身者の女性が賃貸借契約を締結した後に別の者に入れ替わり、犯罪行為の拠点にされることはよくあります。振り込め詐欺の拠点が典型的ですが、今回の事案も犯罪拠点にする目的で部屋が借りられたものと推察できます。
それに不動産会社を利用しないと賃貸保証会社(家賃保証会社)と賃借人との間の保証契約を締結できないので、家賃滞納が生じた際に代位弁済を受けられません。
「不動産会社を利用しないで契約したい。」と言われたら入居を断ることが賢明です。
その2:一般に販売されている賃貸借契約書の書式を用いて契約したこと
書店、文房具店などで一般に販売されている賃貸借契約書の書式では肝心な内容がすっぽり抜け落ちていることがよくあります。
賃貸借契約書を拝見しましたが、暴力団などの反社会的勢力の排除に関する内容が一切記載されていませんでした。これでは入居者が反社会的勢力の一員である場合でも借地借家法により保護され、退去を求めることは著しく困難です。暴対法がありますが、入居を一旦認めると暴対法では退去を要求できないのが現状です。
また、「無断転貸が行われたら直ちに退去を請求できる。」とする条項はなく、「賃貸人が転貸を許可した場合には転貸できる。」と記載されている有様です。これでは無断転貸を理由とした退去請求は困難です。
入居者は大麻草、その他の栽培が違法とされる植物の栽培を行っている可能性があります。しかし、根拠は他の居住者による話と水道使用量が異常であることのみであり、状況証拠があるにすぎません。入室の許可が得られないことから証拠集めはできません。勝手に入室すると住居侵入罪に問われることがあります。
入居者(転借人)は反社会的勢力の一員である可能性が極めて高いですが、契約書に問題があることから退去を求めることはできません。
その3.勤務先における在籍確認を怠ったこと
在籍していないことが判明した場合、賃貸借契約の締結を事前に防げたかもしれません。なお、大企業に勤務する方でも多額の借金を背負い、いわゆるサクラとして利用されている方がいるようなので、在籍を確認できても安心できません。
不動産会社では対応が極めて困難
この案件ではオーナー様が不動産会社を利用せず、自ら内容がスカスカな賃貸借契約を締結してしまったことから私が協力できることはありませんでした。おそらく、どこの不動産会社でも対応出来る内容は極めて限られます。
どうしても退去させたいのであれば弁護士を通じて退去に向けた交渉を行う必要があり、その際にはオーナー様が移転費用を負担しなければならず、その金額はかなり高額になるかもしれない旨を説明しました。
ちなみにこのような場合に警察に相談しても「証拠が不十分なので現段階では捜査を行えない。当面はパトロールを強化し、捜査が必要と判断したら対応する。」等と言われると思います。
その後の捜査により警察が現場に踏み込み、入居者が逮捕される事態になると現場検証、証拠保全措置、明け渡し請求訴訟、残置物の後始末等を行う必要があることから半年~1年近くの間、この部屋を利用出来なくなります。その間の家賃を得られないだけではなく、多額の費用が発生します。
※お断り
相談者のプライバシーに配慮し、さらに事案の内容を理解しやすくするために事案の内容を一部アレンジしています。本事案の詳細を取材したい等の要望には対応いたしかねますので御了承願います。
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