賃貸物件が犯罪拠点になり、警察に摘発されるとオーナー様は大損害

 昨日の投稿の最後に、警察の捜査により賃貸物件の一室が犯罪拠点であるとして警察が踏み込むと、退去させるまでに半年~1年もの日時を要し、オーナー様は長期にわたり家賃収入を得られなくなる旨を書きました。

 本日は、このことについて詳しく説明します。

賃貸物件の一室が犯罪拠点に使用された場合

 賃貸物件は、様々な犯罪の温床になります。振り込め詐欺、無許可で産業廃棄物の貯蔵庫にする、違法な植物の栽培、その他の犯罪に利用されることがよくあります。

 警察が捜査して摘発すれば事件は終息し、オーナー様は入居者に直ちに退去を求めることができるとお考えになるオーナー様が多いです。しかし、事件が警察に摘発されて室内に警察が踏み込み犯人が逮捕されたとしても直ちに部屋の明け渡しを受けることは困難です。

 犯罪の拠点であるとして警察が賃貸物件の一室に踏み込み、その場に居合わせた犯人を逮捕したとします。その後、警察による現場検証が行われ、犯罪に利用された物品が証拠として押収されます。

 現場検証は、事件の内容により何日かに分けて行われることがあります。なお、現場検証が終わっても賃貸借契約は依然として継続しています。オーナー様が部屋に立ち入ることは許されません。

 犯罪拠点として貸室を利用することは、多くの場合に賃貸借契約書に記載されている利用目的に反します。このため、オーナー側から賃貸借契約を解約することになります。

 室内に残された物品の後始末が必要になります。犯罪に使用された物品は押収されて室外に搬出されますが、犯人の衣類やカバン等の私物、テーブル・イス等の家具類、食器、その他が残されていることがあります。これらの物品の所有権は犯人グループのリーダーおよび構成員にあることから、警察に出向いて犯人に所有権の放棄(所有権放棄書への署名、捺印)をしてもらうことが必要になります。

 ところが、「テーブル等の所有権は我々のリーダーに属する。リーダーの名前も居所も知らない。よって、これらの所有権を放棄できる立場ではない。」と言われることがあります。リーダーに関する情報を警察に尋ねても教えてもらえないことが大半です。

 また、警察が踏み込んだ際にたまたま現場に居合わせなかった犯人の私物が残されていることがあります。逃走して身を隠していることが通常であり、所有権の放棄を求めることができません。

 所有権を放棄してもらえない物品が室内にある場合、オーナー様としては室内に立ち入りこれらの物品を廃棄したくなると思いますが、このような行為は自力救済であり違法行為です。

 契約した者がいわゆる犯罪集団のサクラであり、賃貸借契約の締結後に入居者が後で入れ替わっていることがよくあります。賃貸借契約で定められている部屋の利用目的に反し、かつ無断転貸が行われたことから賃貸借契約を直ちに解約できるように思えますが、契約を締結したサクラの居所が不明なことが多く、賃貸借契約の解約通知をどこに送付したらよいのかわからないことがあります。

 所有権を放棄してもらえない物品が室内に残されている場合に部屋を明け渡してもらうためには裁判上の手続きが必要になります。サクラの居所が不明な場合も、賃貸借契約を解約するために裁判手続きが必要です。いずれもかなり煩雑なので、通常は弁護士に依頼することになります。

 明け渡し請求を求める訴状を作成して裁判所に提出し、審理してもらい、明け渡し請求を認める判決を取得するまでには最短で3か月、場合により半年を要します。明け渡し請求を認める確定判決を得られ次第、強制執行を行うことにより室内の物品を移動させますが、強制執行の申し立て後、執行が完了する迄には最低で2か月を要します。

 強制執行を行う場合は、オーナー様の費用で倉庫を確保しなければなりません。執行官、解錠技術者、立会人、執行補助者に対する日当、倉庫の利用料、保管期間終了後の物品廃棄に関する費用などが発生します。最終的に必要な費用の総額は弁護士費用を含め、100万円以上になることがあります。

 空室期間は6か月~1年以上になることが多いです。警察から摘発された時点以降、家賃の入金がストップすることが大半であり、空室期間に家賃収入を得ることは期待できません。

 強制執行を行った場合、その費用は物件を犯罪拠点にしていた者に請求できますが、実行犯のほとんどは無一文同然ですし、リーダーの氏名および居所を知ることは極めて困難です。このため、費用の全額をオーナー様が負担しなければならないことがほとんどです。

 賃貸物件を犯罪拠点にされると賃貸住宅の運営事業が破綻することがあります。オーナー様におかれては、所有されている賃貸物件を犯罪拠点にさせないことが極めて重要です。