自分のお小遣いを要求する営業担当(オーナー様向け)

 都心に事業用ビルを所有するオーナー様から相談を受けました。相談の概要は以下の通りです。

相談の概要

・都心の地下鉄駅から徒歩5分の場所に5階建ての事業用ビルを保有している。法人の事務所が1フロアに1つずつあり、合計で5つの法人が入居している。

・入居している法人の一つが退去したので内装リフォームを実施した。新たな入居者を法人限定で探したい。賃料は月80万円。

・従来から利用していた不動産会社が廃業したことから、投資家仲間の口コミ情報によりお勧めの不動産会社を募った。投資家仲間より店舗および事務所の賃貸が得意であるという不動産会社Aを紹介された。

・Aの営業担当者が訪問して物件を確認した。家賃は80万円で問題ないと言われたが、仲介手数料、その他について以下の要求をされた。
1.賃料80万円であるから、仲介手数料は消費税込88万円にてお願いしたい。
2.その他に広告手数料(A.D.)として88万円を別途請求したい。
3.更に営業担当への手数料として40万円を請求したい。なお、この40万円については領収書をお渡しできない。

「営業担当への手数料」とは何かを尋ねたら、「私に対する報酬です。」とのことであった。

・この会社に客付けを依頼して大丈夫か。

以下、1~3について検討します。

1. 「賃料80万円であるから、仲介手数料は消費税込88万円にてお願いしたい。 」について

 貸主および借主の一方から徴収できる仲介手数料の金額は宅地建物取引業法により定められており、基本的には半月分の家賃相当額に消費税を加算した金額になります。ただし、当事者の一方のみから徴収する場合は、依頼者の承諾が得られていることを条件として1か月分の家賃相当額に消費税を加算した金額を受領して構わないとされています。よって、貸主が承諾していれば合法と言えます。

2. 「広告手数料(A.D.)として88万円を別途請求したい。」について

 広告手数料といっても、その内容が問題です。確かに不動産会社が依頼者の要望により特別な広告活動をした場合は、実費の請求が認められています。しかし、広告手数料として収受できるのは「実費」です。広告の内容を定めず、しかも広告を掲出する否かが未定の状態で予め金額を取り決め、全額を徴収することを貸主に了解させる行為は宅地建物取引業法に反する恐れがあります。

 「インターネットのポータルサイトに掲載するので広告料をいただきたい」と広告料を請求する不動産会社がありますが、有名なポータルサイトに数多く掲載する、ポータルサイトの検索結果で上位にくるようにシステム会社に操作を依頼する等を行うのでなければ、その請求は不当ではないかと思います。

 ちなみに、私の会社ではインターネットのポータルサイトに掲載するだけで広告料を請求したことはありません。

 客付けをしてくれた別の不動産会社に対する謝礼(A.D.)という意味であれば一応はスジが通りそうですが、そのことについてオーナー様が承諾している必要があります。オーナー様が了承している場合でも厳密には宅地建物取引業法に違反する恐れがあり、グレー領域でしょう。

 北海道等の賃貸アパートで賃料が極めて低廉な場合、広告手数料または交通費の名目で家賃の3~8か月分を徴収する不動産会社があるようです。しかし、このようなエリアでは月賃料3万円未満の物件が多く、さらに不動産会社から物件までの距離がかなり離れていることが多いです。都会の物件では考えられない程に高額なガソリン代および人件費が発生し、月賃料をベースにした仲介手数料では採算が全く合わないので黙認されているだけのことです。

3. 「営業担当への手数料として40万円を請求する。領収書は渡せない。」について

 宅地建物取引業法に違反する行為です。仮にこの営業担当が宅地建物取引士であっても、この営業担当が個人の資格で宅地建物取引業免許を取得していなければ、「営業担当の個人」が報酬を得る行為は「無免許営業」です。

 発覚した際には宅地建物取引業法第12条第1項および同法第79条第2項により処断されます。具体的には3年以下の懲役刑または300万円以下の罰金刑が科され、併科されることがあります。

 この営業担当は40万円もの「お小遣い」を請求したわけですが、これは本人が考えている以上に重大な犯罪行為です。宅地建物取引業法が定める違反行為の中でも最も重大な違反行為であることから、発覚した場合は取り締まりの対象になる恐れがあります。立件された場合、この営業担当は懲役刑に処せられることがあります。

 それに領収書を渡さない行為は所得税法に違反する行為であり、この点も問題です。「領収書を渡さない」ということは報酬を受領しても勤務先に報告せず、税務申告を行う意思もないことを意味します。

 コンプライアンスに対する認識が大甘であり、このような者を営業担当として雇い入れる不動産会社はどうかしています。社員に対する指導が行き届いていないことを端的に示しています。

 営業担当への手数料として「自分に対するお小遣い」を要求された場合は、その営業担当はもちろん、この営業担当を雇用している不動産会社も出入り禁止にするべきです。当然ですが、この不動産会社に客付けを依頼することは避けるべきです。

※お断り
 相談者のプライバシーに配慮し、事案を理解しやすくするために事案の内容を一部アレンジしています。