困った相談(その2、賃貸物件の不具合を放置し、入居者を募集したい)

 コロナ禍が長期化したことから東京等の大都市では多くの飲食店および商店が閉店し、企業のリモートワークが急速に推進されました。このために賃貸物件、特に若い単身者向けの賃貸物件において、入居者が一斉に退去しました。空室が増加して家賃収入を得られなくなった上に家賃の値引き要求が増えたことが原因で、建物や室内設備の修繕費を捻出できなくなるオーナー様が増えています。

 屋上の防水塗装を行う時期が到来しているのに防水工事を行わなかったことから雨漏りが発生している物件、雨漏りが原因で壁クロスが剥がれて室内にカビが発生している物件、前居住者がヘビースモーカーであったことから室内のタバコ臭が酷い上に壁クロスが濃い茶色に変色している物件、窓や玄関扉の施錠機構が破損しているために施錠できない物件、トイレの便座が破損して割れている物件、エアコンが故障して動作しない物件、ユニットバス付属の洗面台における水道栓が壊れていて水が出ない物件等があり、不具合を放置しているわけです。オートロックやエレベーターの故障を放置している物件もあります。

 いずれも筆者が実際に遭遇した物件です。このような物件では修理または原状回復を行わないと、次に入居する方はいつまでも決まりません。しかし、オーナー様の中には「お金がないから直せない。」とか「修理費は次の入居者に負担してもらいたい。現状で次の入居者を募集して欲しい。」等と強硬に言われる方がいらっしゃいます。

 室内設備については自然損耗や自然故障でなければ入居者に原状回復費用を請求できる旨、および退去の際に敷金から差し引くことも可能である旨をオーナー様に説明しますが、「前回は敷金ゼロ礼金ゼロの条件で募集し、敷金を徴収していないので差し引けない。」とか「家賃の滞納が続いたので退去を求めたら自発的に退去してくれた。しかし、手持ちの現金がないので原状回復費は出せないと言われた。」と言われることが多いです。

 窓や玄関扉の施錠が出来ない物件は論外です。施錠が出来ないことを知りながらその物件をお客様に紹介し、施錠できない箇所から賊が侵入し、窃盗または強盗致傷事件等が発生した場合、不動産会社も損害賠償責任を負う恐れがあります。

 また、オートロックやエレベーターの故障を放置している物件は論外です。これらの物件では、修理が完了するまで入居者の募集をお断りするしかありません。

 安く仕上げてくれる業者の紹介、その他を試みても納得せず、「お金がないんだから仕方ないだろう。このまま入居者を募集しろ。」と逆上されたオーナー様がいらっしゃいます。

 しかし、賃貸借契約において貸主が履行しなければならない義務を果たすつもりがないことが明らかである以上、不動産会社としては仲介をお断りするしかありません。

 コロナ禍が終息しないと金銭的に困窮するオーナー様が増えるばかりです。このままでは賃貸住宅の運営が破綻し、破産するオーナー様が確実に増えます。入居者においても安全かつ快適に生活できなくなる事態になりまねません。

 世の中にはコロナ禍が終息したような雰囲気がありますが、東京都では毎日8千人以上の感染者が発生しています。日中の人出は増えつつありますが、飲食店における客数は低迷したままです。何とかならないのでしょうか。