困った相談(その12、賃貸物件の退去期日を過ぎても退去しない)

 1棟ものの賃貸マンションを所有されているオーナー様からの相談です。入居者から退去(賃貸借契約の解約)に関する連絡がありました。退去日は連絡があった日の1か月以上先であり、賃貸借契約において定められている内容(退去の際は1か月以上前に連絡する)に反しません。

 オーナー様は退去について了承しました。退去したらすぐに内部を点検し、必要があればリフォームを行うことをについて管理会社および工務店に相談しました。さらに最寄りの賃貸を専門とする不動産仲介会社に連絡し、「○月○日退去予定」と記載した上で物件情報をポータルサイトに掲載してもらいました。

 退去日になりましたが、入居者は引越をする気配がありません。事情を尋ねると、「引越先の物件に現在入居している方が退去しないので引越が出来ない。もう少し待って欲しい。」と言われたとのことです。

 数日後、「引越先が空室になる見込みがなくなった。退去(賃貸借契約の解約)を撤回したい。」との連絡がありました。

 しかし、次の入居者を募集する不動産仲介会社では、「立地が良い物件なので、空室になった時点で内見したい」という内見希望者が既に数名いる状況でした。「入居者募集を撤回したい」と申し出たら、「冗談じゃない。当社の信用問題になり、風評被害が生じます。撤回はお断りします。現在の入居者を何が何でも退去させてください。」と言われました。

 オーナー様の相談は、どうしたらよいかというものです。

 このような相談はよくあります。結論から申し上げると、賃借人は賃貸借契約を一旦解約すると、解約を取り消すことはできません。このことは民法540条第2項において定められています。したがって、引越先を確保できているか否かにかかわらず、賃借人は退去日までに退去しなければなりません。

 入居者が退去するか否かが不明確な物件(退去が完了していない物件は、退去するか否かが不明確な物件であると言えます)を引越先として選択した賃借人の落ち度は大きいです。オーナー様は当該入居者に対し、直ちに他の物件を探して引越しをするように求めて構いません。退去しない場合は損害賠償を請求することも法的には可能です。

 なお、不動産仲介会社に次の入居者募集を依頼しているとはいえ、内見希望者が誰もおらず、誰が入居するかが確定していない場合は不動産会社に対し入居者募集の撤回をお願いできる余地はあります。

 しかし、この事案では「立地が良い物件なので空室になった時点で内見を希望する方が数名いる」とのことであり、入居者募集を撤回したらその不動産仲介会社に対する風評被害が必ず発生します。その不動産仲介会社との関係悪化を避けるためには民法の規定(540条第2校)に従い、現在の入居者に退去を求めることが無難です。

 なお、賃貸借契約の特約条項に「予め通告した退去日を過ぎて居住を継続する場合は、賃料相当損害金として賃料の倍額を支払わなければならない」等の文言を入れておくことにより、賃借人が賃貸借契約を安易に解約することをある程度防止できます。

 賃貸借契約を締結する際に「賃貸借契約を解約して退去日を通知した場合は、解約を撤回できない。」と説明することもトラブルを未然に防ぐことにつながります。