困った相談(その17、子供を特定の小学校に通わせるため、虚偽の賃貸借契約書を作成して欲しい)
週刊誌に東京大学、その他の有名大学における合格者が卒業した公立小学校の一覧表が合格者の多い順に掲載されることがあります。この種の特集記事は、ほぼ毎年いずれかの週刊誌で掲載されます。
私の会社の近くにある公立小学校 が「東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学の合格者を多く輩出している」として週刊誌に掲載された直後から「この小学校に子供を通学させたい。このため、この小学校の学区域内にある賃貸マンションを借りたい。家賃相場と物件情報を知りたい。」という電話が数多くかかり、対応に辟易としたことがあります。
住宅ローンを利用して既に自己居住用の住宅を購入し、ローンの返済を毎月行っている方の場合、家賃を捻出できる資力がある方はかなり少なく、ほとんどの場合に賃貸物件のご紹介を致しかねるのが実情です。
驚いたのは「子供を週刊誌に掲載された公立小学校に入学させれば東京大学等の有名大学に合格させることができる」と考える方がとても多いことです。
ある公立の小学校に優秀な先生がいても、一定期間毎に転勤させる地方自治体(市区町村)では同じ地方自治体に属する他の小学校に異動することがあります。このことを知らない方が多いです。
それに有名大学に合格させたいのであれば、東京都内であれば公立よりも私立に入学させる方が合格の可能性は高くなります。
ご承知の通り、有名大学に合格できるかは教育環境だけではなく家庭環境、本人の能力および体力、親の資力等が関係します。有名大学の合格者を多く輩出している小学校に入学させれば足りるわけではありません。
越境通学をさせれば有名大学に合格できるという幻想
「息子を○○小学校に通わせるためには学区域内に居住していることを示す住民票が必要です。学区域内の賃貸物件を借りている旨を記載した賃貸借契約書を作成していただけませんか。御社が所有する賃貸マンションの一室を借りていることにしてください。謝礼として30万円を支払います。」と言われた方がいらっしゃいます。ほぼ同じ時期に同様の要望をされ「20万円を支払います。」と言われた方もいらっしゃいます。
いずれも賃貸物件を借りる意思は全くなく「虚偽の賃貸借契約書を作成させ、居住実態がないのに住民票を取得し、当該学区域内に居住していることを装い、目的の小学校に入学させる」という発想をしています。破天荒の極みであり、呆れ果てて返す言葉が見つかりません。
虚偽の内容を記載した賃貸借契約書を作成すると宅地建物取引業法および電磁的記録不正作出罪(刑法第168条の2第1項、住民票データを作成させた)に問われます。不動産会社は間違いなく事務停止処分を受け、複数回繰り返した場合は宅地建物取引業免許を取り消されます。違法行為なので、この要望はお断りするしかありません。
問合せをされた二人の方に、どこから通学させるつもりなのかを尋ねたらいずれも通学に片道2時間半以上を要するエリアでした。最初に問合せをした方に「小学生に対し毎日、往復で5時間以上を通学にかけさせるつもりですか。」と申し上げたところ「いけませんか。これからの世の中は格差がドンドン酷くなる。息子が成人になる頃には貧乏人が99%、大金持ちが1%の世の中になる。子供を金持ちにするためにはどのような手段を使っても子供を有名大学に合格させなければならない。不動産屋にはそんな親の気持ちがわかるわけがない。」と言われました。
確かにここ数年、経済格差は酷くなっています。しかし、10年以上先の社会状況は誰にもわかりません。確かなのは有名大学を卒業しても安泰な生活が送れる保証は何もないということです。
当然ですが、「内容が虚偽である賃貸借契約書の発行は犯罪なので応じられません。少額の謝礼で対応できる話ではありません。」と告げ、二人ともお断りさせていただきました。
「子供に越境通学をさせれば有名大学に合格できる」というのは幻想であり、遠方から越境通学させても有名大学の合格にはつながりません。また、有名大学を卒業しても勤め先を解雇され、無収入に陥っている方は数多くいます。
それに通学に5時間以上を要するのでは、この子供はいつ勉強するのでしょうか。これでは進学塾に行かせる時間がありません。
繰り返しますが、 ある公立の学校に優秀な先生がいても他の学校に異動することがあります。それに有名大学に合格できるかは教育環境だけではなく家庭環境、本人の能力および体力、親の資力等が関係します。
仮に週刊誌で紹介された学校の学区域内に子供を住まわせるとしても、住宅ローンを利用して自己居住用の住宅を購入した方の大半はローンの返済額が問題になります。ほとんどの場合に収入が足りないので賃貸物件の紹介を受けられません。
相談されても説明する度に虚しくなるので「困った相談」です。
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