困った相談(その19、土地を競売で購入したが建築不可であった)

 裁判所が開催する不動産競売において、東京都23区内にある土地が売却されました。裁判所が発行した「期間入札の公告」(いわゆる物件概要書)によると、現況は更地であり、いわゆる旗竿地(敷地延長型)です。

 ただし、「旗」の部分のみが売却対象であり、「竿」の部分は売却の対象ではありません。「期間入札の公告」には以下の問題点がある旨が記載されていました。

・通路を構成する土地の所有者は、売却対象である土地の所有者と異なる。
・通路を構成する土地の幅は、最も狭いところで1.6mである

原文はもう少し複雑ですが、理解しやすくするために簡略化しています。

 建築基準法により、この土地に建物を建てることは認められません。他人の土地を通らなければ道路に出られず、さらに「竿」部分の幅が1.6mしかない(建物を建設するためには2m以上が必要)からです。

 土地の広さは約60坪であり、最寄り駅から徒歩約10分の閑静な住宅街にあります。「竿」の部分における前面道路は公道です。建物を建てられる土地であれば1億2千万円以上の価値があります。しかし、法的に建物を建設できないことから、売買の対象にならない土地であると言えます。 

  この「期間入札の公告」を不動産売買業に携わる方が読めば、建築基準法により建物を建てられない土地であることがすぐにわかります。しかし、「期間入札の公告」には「建築不可」、「建物の建設は出来ない」等の文言は一切ありませんでした。 

 このため、不動産業者ではない一般の方が建築不可の土地であることに全く気付かずに入札し、購入してしまいました。この方はアパート建設用地を探しており、土地を安く購入して賃貸アパートを建て、高利回りで運用することを考えていたようです。土地の落札価格は4千万円弱であったとのことです。「通常は1億2千万円以上する土地を、不動産競売なので4千万円で購入できる」と錯覚して入札したようです。

 落札後、建築業者と打ち合わせをしたところ建築不可の土地であることを知り、愕然として不動産会社に売却を依頼しました。

 依頼を受けた不動産会社は私の会社に購入を打診しました。「3千万円以上であれば直ちにお売りします。」とのことでしたが、建物を建てられない土地を購入しても仕方ありませんのでお断りしました。売却依頼を受けた不動産会社の営業担当は、その後も私の会社に2回来訪して購入を繰り返し要請しましたが、お断りするしかありませんでした。

 3千万円以上の資金を無期限に寝かせておくことは出来ませんし、更地であることから建付地の6倍に設定されている高額な固定資産税、および都市計画税を毎年支払わなければならないからです。

 裁判所が開催する不動産競売で不動産を購入する場合は現況渡しであり、契約不適合責任はほとんどの場合に免責されます。購入した不動産を思い通りに利用できなくても誰も責任を負いません。

 不動産業に携わらない一般の方が、一定レベルの知識を備えることなく不動産競売で不動産を購入することはとても危険です。「期間入札の公告」に「建築不可」とか「建物の建設は出来ない」等の文言が記載されていなくても

・通路を構成する土地の所有者は、売却対象である土地の所有者と異なる。
・通路を構成する土地の幅は、最も狭いところで1.6mである

との記載があれば、それだけで建築不可の土地であることを判断できるだけの知識がないと大損害を被ることになります。 

 不動産競売で購入した物件に関する相談を受けることがありますが、解決策が存在しないために返答に窮することがあります。相談を受けても虚しいことが多く、返答に窮することが多いので「困った相談」です。

※相談者のプライバシーに配慮し、さらに本事案を理解しやすくするために事案の一部を修正しています。