建物に対する強制執行では、居住者は必ず退去させられるか

 不動産競売、強制競売が行われ、落札者が代金を支払うと不動産の所有権は新たな所有者に移転します。所有権移転が登記簿に反映され次第、新たな所有者は債務者・所有者(元の所有者)に対し任意の明け渡しに向けた交渉を行います。

※例外あり:
 収益用不動産において、抵当権または根抵当権が設定される以前から当該不動産を賃貸借契約により借り受けている賃借人が居住している場合は、その賃借人に明け渡しを求めることはできません。

 不動産競売において新しい所有者が代金を支払い、所有権移転登記が行われた後に引渡命令が発令された、または明け渡し請求訴訟において明け渡し請求を認める確定判決が下されたとします。この状況においても任意の明け渡しを拒む、または一切の交渉に応じない場合は強制執行に移行します。

 強制執行は催告および断行の二段階で行われます。裁判所の執行官室に強制執行の申し立てを行うと、通常は2~3週間後に執行官、執行補助者、解錠技術者、立会人、新所有者が物件を訪問し、明け渡しの催告をします。債務者・所有者、または同居の居住者が在室している場合は、明け渡すように催告します。明け渡しに際して障害となる事情がある場合は、これらについて聴取します。

 また、「執行不能」に該当しないかについて、催告の際に確認します。強制執行が執行不能になるのは以下の場合です。

強制執行が執行不能になる場合

1.強制的に退去さると債務者・所有者(元の所有者)の生命に危険が生じる場合 
 建物内で病気療養中であり、症状が重篤な場合などが該当します。 

 無一文同然である方の中には健康保険料を支払えないことから医療費を全額自己負担とされている方がいます。全額自己負担では医療費を支出できないとして医療行為を受けることを拒み、自宅で療養している方がいます。
 この場合は緊急避難として裁判所が保護の要請を地方自治体に働きかけ、施設への入院措置などが行われることが多いです。しかし、病状が極めて重篤であり、搬送中に死亡する恐れがある等の場合は「執行不能」とされることがあります。 

2.居住者が債務者・所有者(元の所有者)の子のみであり、中学生以下で親の連絡先が不明である場合
 中学生以下の子どものみが建物内に取り残され、親の居所や連絡先がわからない場合です。

 催告の1か月後に断行が行われます。断行では執行補助者が債務者・所有者および家族を強制的に退去させます。居座る場合でも連れ出します。その後、建物内の家財を搬出し、予め確保している倉庫に搬入します。

 このため、建物内から強制的に排除した際に、債務者・所有者の生命に危機が生じないかが「執行不能」と判断されるかのポイントになります。

 なお、強制執行が「執行不能」になる恐れがある場合は、不動産競売の公告に添付されている現況調査報告書にその旨が記載されていることが多いです(執行不能になる恐れがある場合、強制執行の催告が行われる以前にその事実が判明していることが多いので現況調査報告書に記載される)。 

 この場合は「執行不能になる恐れがある」等の直接的な表現ではなく、「債務者・所有者は建物内で療養中であり、病院への搬送および入院は極めて困難な状態と思われる」等の記述がされていることが多いです。

 裁判所は、発令した引渡命令、および明け渡し請求を認める確定判決の内容を可能な限り実施させるように職務を遂行します。上述した特殊な事情がなければ強制執行の「断行」において、居住者はほぼ確実に退去させられると考えて差し支えありません。