賃貸アパート・マンションが老朽化し、退去を求める場合(オーナー様向け)

 古い賃貸物件の場合、空室が生じると、次の入居者がなかなか決まらないことがあります。建物の老朽化が進行していることが原因である場合は建物を取り壊して再建築する、または更地にして売却することを考えるオーナー様が多いです。 

 建物を取り壊す際は入居している賃借人に退去を求めなければなりません。普通賃貸借契約では、貸主が賃貸借契約を解約する場合は契約期間が満了する6か月~1年前に通知することが規定されています。このため、契約期間満了の6か月~1年前に退去を要求すれば退去してもらえるとお考えのオーナー様が多くいらっしゃいます。

 しかし、借地借家法は原則として賃貸人および賃借人相互の信頼関係が破壊された場合でなければ賃貸人による賃貸借契約の解約を認めていません。その他には大地震で建物が倒壊した、建物が火災により焼失した等の事情が生じたことにより賃貸人が賃貸借契約を履行できなくなった場合でなければ賃貸人による賃貸借契約の解約は認められません。

 従って「建物が老朽化した」という理由だけでは賃貸人が賃貸借契約を一方的に解約することはできないとされています。建物の老朽化を理由として解約する場合は「老朽化の程度が酷いために耐震工事を行っても賃借人の安全を確保できないことが判明した」、「地震により建物に亀裂が入り、居住不適格と判断された」などの事情があることが必要です。

退去を求める理由が建物の老朽化である場合も、立退料の支払いが必要

 契約期間が満了する6か月~1年前にオーナー様が賃貸借契約の解約を予告した場合でも「老朽化による建て替え」はオーナー様の事情であることから賃借人に対する立退料の支払いが必要になります。

 立退料としては引っ越し業者に支払う運送費の実費、新しい物件に入居する際に支払う仲介手数料および礼金、新しい物件の家賃が現在居住している物件の家賃よりも高額である場合は差額の1~2年分、インターネットおよび電話回線の廃止及び開設に要する費用、迷惑料などが必要になります。

 立退料の相場は家賃6か月~12か月分になることが多いです。具体的な金額はオーナー様と借主との話し合いで決めることになりますが、金額を少なくすると「納得できないので退去しない」と主張する賃借人が現れることがあります。

 この場合は弁護士に交渉を依頼することになります。ちなみに不動産会社が単独でこの交渉を行うと弁護士法に違反する非弁行為として処罰されるので、不動産会社が主体的に交渉することは認められていません。

 なお、「退去しない」と主張する賃借人を力ずくで追い出すと損害賠償を請求され、場合により暴行罪・傷害罪などで処罰されることにつながるので絶対に行うべきではありません。

立退料を不要とするためにはどうするか

 賃貸借契約を普通賃貸借契約ではなく定期借家契約として締結することをお勧めします。契約期間が満了する度に再契約をする必要が生じますが、定期借家契約にすれば契約期間の満了により賃借人の退去を要求できますし、立退料を支払う必要もありません。

 既に普通賃貸借契約を締結している賃借人に対し、定期借家契約への切り替えを依頼することは難しい場合が多いので、空室が発生した際における次の入居者から順次定期借家契約を締結することをお勧めします。