インボイス制度開始の約1年前になりました

 10月16日の宅建試験を受けられた方におかれてはお疲れ様でした。資格予備校が作成した解答速報がWEBサイトに掲載されています。今年の試験では合格のボーダーラインを示しているWEBサイトが少ないのが気がかりです。ボーダーラインを決めかねる何らかの要素があるのかも知れません。

 2023年10月よりインボイス制度が始まります。このインボイス制度が開始されると、事業用物件を事業者に貸しているオーナー様の中で免税事業者とされている方が大きな影響を受けます。必要に応じ事前の準備をしておく必要があります。

 現在、売上げ1,000万円未満の事業者は免税事業者とされています。ここでいう売上げとは消費税抜きの金額ですから消費税込みの売上げが1,100万円未満の事業者は免税業者として扱われます。

 免税事業者は消費税の納税義務がありません。このため、所有する貸店舗や貸事務所を事業者に貸して賃料収入を得ているオーナー様が「消費税」の名目で借主から家賃相当額の10%を徴収し、これを「益税」として自分の懐に入れたとしても、その10%分の金額については納税する必要がありません。

 借主である事業者の大半はこのことを承知していますが、現在は黙認しているところがほとんどです。消費税の10%分については「消費税を支払った」として税務申告することが認められており、現在は税額控除をすることができるからです。このため、オーナー様に対するクレームはほとんどないと思われます。 

 ところが、2023年10月にインボイス制度が導入されると、支払先(貸主)が免税事業者である場合は、借主が「消費税を支払った」として税務申告することができなくなります。借主である事業者は消費税の10%分について損金として処理しなければならなくなります。

 つまり2023年10月以降は、借主である事業者が支払う家賃が10%増額されるのと同じことになります。当然ですが、借主である事業者は貸主(免税事業者である場合)に対し消費税相当額の値引きを要求するか、支払を拒否することになります。

 貸主が消費税相当額の値引きを拒否すると、民事裁判が提起されて貸主が敗訴する可能性が極めて高いです。貸主が免税事業者である以上、「消費税」として徴収された金銭は民法上の「不当利得」にあたるとされると思われます。

 貸主が、従来通り家賃に消費税を上乗せして徴収したいのであれば「課税事業者」になる必要があります。売上げが年1,000万円未満の事業者でも、税務署に申告することにより課税事業者になることが可能です。

 ただし、課税事業者になると借主から徴収した消費税から物件の維持費に係る消費税を差し引いた金額を納税する義務が発生します。もはや「益税」は許されないことになります。

対策

 貸主が課税業者にならない場合、家賃を10%程度増額しておかないと従来通りの賃料収入(益税込の金額)を得ることが出来なくなります。 

 課税業者を選択すると、従来は「益税」として懐に入れていた金額の多くを納税しなければならなくなります。「益税」として得ていた金額を今後も得たい場合は賃料を値上げするしかありません。

 しかし、不況が深刻化していることから賃料を10%も値上げしようものなら「採算割れなので営業を断念するしかない」として廃業し、退去される恐れが高くなります。

 事業用物件のオーナー様におかれてはキャッシュフローの見直しが急務です。