サブリース方式における新たな問題
※相談事例です。サブリース、マスタリース契約についてご存じの方は、「本題-最近見られる新たな問題」からお読みいただいても構いません。
サブリース契約、マスターリース契約の概要
これらについては知っている方が多いと思いますが、「おさらい」の意味で概要を解説します。
収益用不動産を初めて購入する旨を不動産会社の営業担当に告げると、サブリース方式での運用を提案されることがあります。
オーナー様は収益用不動産をサブリース事業者に貸します。その際に、オーナー様とサブリース事業者との間にマスターリース契約を締結します。マスターリース契約は実質的に賃貸借契約であり、サブリース事業者は建物の入居状況にかかわらずオーナー様に満室時の想定賃料の約8割を支払うことで借り上げることを約します。
さらに建物の管理、共用部の清掃、賃借人の退去手続き、入居者募集、家賃の出納と督促はサブリース業者が行うことが定められます。建物のオーナー様におかれては手間がかかりません。
サブリース契約が締結されている物件では、オーナー様は常に一定の金額の入金があることを保証されます。このために金融機関の心証が良く、事業用ローン審査を通過しやすいです。
これらの理由により収益用不動産の運営が初めてである方に対し、不動産会社の営業担当がサブリース方式の利用を勧めることがよくあります。そして、購入希望者における本業が忙しいと契約内容をよく確認せずにマスターリース契約を締結し、後で激しく後悔することがあります。
悪徳業者に注意
残念ながら、サブリース事業者の中には悪徳業者が存在します。
入居者が退去する際の原状回復、大規模修繕、設備の更新、修繕をサブリース事業者が指定する業者に発注しなければならないことがマスターリース契約の特約として定められていることがあります。さらに費用が一般的な相場の2倍以上であることがよくあり、全額をオーナー様の負担にする旨が定められていることがあります。
様々な問題がありますが、詳細はこのブログの過去記事を参照願います。
収益用不動産のオーナー様は事業者であり、消費者ではありません。このため、消費者契約法による保護を受けることはできません。大きな問題が生じた場合は民事訴訟で争うことになります。
売却する際の査定価格が低くなる
これも過去記事に書きました。マスターリース契約が締結されている物件の査定価格は、マスターリース契約がない場合の8割にしかなりません。
このため、「マスターリース契約を解約したい」という相談が時々ありますが、マスターリース契約の実質は賃貸借契約なので、サブリース事業者は借地借家法により保護されます。つまり、サブリース事業者がオーナー様に賃料を支払わないなど、相互の信頼関係を破壊する行為がなければマスターリース契約を解約できません。
どうしても解約する場合は、多額の違約金を支払わなければならないことがよくあります。物件の規模や建物の築年数によりますが、1,000万円以上になることがよくあります。
本題-最近見られる新たな問題
コロナ禍が長期間継続したことから新たな問題が生じています。それはサブリース事業者が管理を意図的に疎かにし、入居者が設備の故障を訴えても何も対応せずに放置するという問題です。
エアコンや給湯器、コンロなどが故障しても、意図的に一切対応しないのです。その後、サブリース事業者が何も対応しないことに業を煮やした入居者が退去すると設備の修理や更新、室内クロスの全面貼り替え等を、サブリース事業者が指定する工事業者に発注します。
修繕が必要な設備が1つだけであっても、室内のあらゆる設備を「故障した」と偽って更新し、多額の費用をオーナー様に請求します。
この工事業者がオーナー様に請求する金額は相場の2倍を超えることがありますが、差額はサブリース事業者に対するリベートとして渡されます。
なお、指定する工事業者以外に発注することを禁止することがマスターリース契約の特約で定められ、違反した場合は高額な違約金を請求される旨が定められていることがよくあります。
問題は、サブリース事業者がリベート欲しさにこのような背信的な行為を行ってもオーナー様による立証が極めて困難なことにあります。このような場合でもマスターリース契約をオーナー様が解約することは認められません。借地借家法の規定によりサブリース事業者は保護されるからです。
このような事案が散見されるので、サブリース方式で運用する際はオーナー様においてサブリース事業者が信頼できる会社であるかを見極める必要がありますが、賃貸経営の初心者が見極めるのはかなり難しいと思います。
オーナー様が賃貸経営の初心者である場合は、所有する収益用不動産をサブリース方式で運用することはお勧めできない状況になりつつあります。
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