不動産売物件の値引きを求める場合の注意(その2)

2023年2月1日

※前回投稿した内容の続きです。

 前回の投稿では値引きを求めた際に売主または売主側の不動産会社がどのような対応をするかについて書きました。今日は、不動産の購入を希望する方が行ってはいけない、いわゆる「禁じ手」について書きます。

1.物件の欠点を片っ端から取り上げて値引きを迫る行為

 最近、ポータルサイトを見て物件を内見し、気に入ったことから価格交渉を行う際に売主または売主側の不動産会社に対し、物件や設備の欠点および古さ等を片っ端から指摘して値引きを迫る方がいらっしゃいます。

 しかし、このような行為は売主および売主側の不動産会社を不快にさせるだけで逆効果です。売主の大半は、「この方に売却した場合、売り渡した後でもクレームを付けられてトラブルになる。」と捉えるでしょう。

 さらに大幅な値引きを迫られるわけですから、売主は「この方には売りたくない。」とお考えになります。最終的には「この方には売却しない」という判断をされることになります。

 買主側に不動産仲介会社が存在する場合(不動産会社から紹介を受けた物件)は、価格交渉を主に不動産会社が行うのでこのような無茶な値引き要求はしないと思います。

2.新しく、かつ故障していないのに設備の新品交換を求める行為

 筆者の会社が神奈川県内でファミリー向け中古区分マンション(築6年、3LDK)を売主として販売したことがあります。

 ポータルサイトに掲載したところ、「値引き額は少なくても構わないが、浴槽、浴室設備、システムキッチンユニット、水洗トイレの便器、温水暖房便座を全て新品に交換して欲しい」という要望をされたお客様がいらっしゃいます。

 築6年の区分マンションであり、故障している設備はないので新品に交換する必要はないことを伝えたのですが、「他人が使用していた水回り設備は嫌なので新品に替えてください。」とのことでした。

 「この物件は中古なので現況でのお渡しになります。ハウスクリーニングはしますが、故障していない設備を新品に交換することはお受け致しかねます。新品に交換したいのであれば、本物件を現況でお買い求めいただいた後、お客様の御負担による入れ替えをお願いします。」と告げました。

 すると「新品交換をして確認した後でないと買いません。費用はそちらで負担してください。」と言われました。

 「申し訳ありませんが、そこまで新品にこだわるなら新築マンションをお買い求めください。」と告げ、以後の商談をお断りさせていただきました。

 このような要望をされる方は他の物件でもたまにいらっしゃいます。類似の要望として「広いリビングが欲しいので部屋をリフォームし、間取りを替えて欲しい。リフォーム後に内見してから購入するかを決めたい。」と言われた方がいらっしゃいます。

 このような要望は実質的に大幅な値引きを要求しているのと同じです。お客様は自分の他にもいらっしゃることを全く考えていないのでしょう。ほとんどの売主は対応せずに商談を打ち切ると思われます。

3.売主及び買主の双方が売却金額について合意したところで不動産会社を排除する行為

 不動産会社を通じて物件の紹介を受け、内見後に売主側の不動産会社と交渉して値引き額を決めたのに契約直前にキャンセルする買主がいます。さらにその後、1週間もしないうちに売主が「売却する意思がなくなった」として媒介契約を解約することがあります。

 このような場合、売買金額を決めた後に仲介手数料を節約する目的で不動産会社を通さずに売買することを買主が売主に提案していることがあります。

 売主の住所、氏名は登記事項証明書を見ればわかります。このため、買主において購入代金の全額を手持ち資金で支払える場合、買主が売主に提案することが多いです。

 ちなみに住宅ローンを利用して購入する場合は、不動産会社を通さないと金融機関が住宅ローン融資に応じないことから買主が売主にこのような提案をすることは極めて稀です。

 不動産会社を通じた値引き交渉後、売主および買主が合意した上で不動産会社を排除した売買契約を締結しても、商法512条の規定により仲介手数料を請求されます。支払を拒否した場合は民事訴訟を提起されることがあります。

商法

第512条(報酬請求権)
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

 それに売買の対象となる不動産に抵当権や根抵当権、地上権や地役権等が登記されていた場合、その処理は複雑です。所有権移転仮登記、差押などの危険な登記が行われていることもあります。

 不動産会社を介在させないで売買契約を締結することは危険です。所有権移転仮登記等が登記されている不動産を購入すると全財産を失うことがあるので要注意です。