不動産売買業、売買仲介業はAIによる完全自動化が可能か
ここ数年の間に電子計算機の能力が格段に向上しました。単純作業はAIで代用できる世の中になりました。通販サイトで売られている商品の問合せをしたい場合、AIを利用したチャットで解決できることが増えています。
早くて数年後、遅くても10年後には不動産売買、および不動産売買も将来はAIによる対応に置き替わり、不動産会社における営業担当はいなくなると予想する方がいらっしゃいます。関連する記事が時々雑誌などに掲載されています。
「不動産の購入はAIで全て自動化できる」と主張する方は、AIにより自動化された不動産売買は概ね以下のようになると主張します。
・物件の紹介を受ける場合はポータルサイトに掲載されている物件を選択し、内見希望のボタンをクリックすると内見方法が表示される。オンライン内見を実施したい場合は、対応するボタンをクリックすることによりオンライン内見が実施される。
・重要事項説明はオンラインで行う。または重要事項説明書を売主(または売主側の不動産会社)が購入希望者にオンラインで送付するだけで構わないように法改正する。
・購入を申し込む場合は通販と同じようにマウスでクリックすることにより契約が成立する。代金の支払はオンラインバンクで済ませる。
・住宅ローンを利用する際もWEBサイト上で申込みが完了する。申込時に希望借入金額、希望返済期間、年収、年齢、勤務先、職業をインプットすることにより金銭消費貸借契約締結の可否はAIが自動的に判断する。AIは入力された条件により最適な利率を算出する。契約締結可能と判断された場合、金銭消費貸借契約はマウスクリック一つで成立し、借り入れた金銭は決済時に自動で売主に支払われる。
・鍵の受け渡しは、売主における入金の確認後に宅配便で行う。
正直申し上げると、上記の内容はあまりにも荒唐無稽で話になりません。申し訳ないのですが、不動産売買および売買仲介に携わったことのない方による見方であるとしか思えません。
1.物件の紹介および内見
不動産の内見は、当該不動産の購入を真剣に検討している方のみに対し行います。マウスクリックのみで内見できるようにすると、購入目的ではない方が内見を申し込むことが容易に想定されます。
購入した方が入居した後に侵入して窃盗行為を行うことを考える輩、盗撮目的で建物内に小型のWEBカメラを設置する目的で内見を申し込むことが想定されます。
現在、内見の申し込みを不動産会社が受けた場合は不動産会社の社員が同行するのが通常です。大半は内見の前に氏名および連絡先をお客様カードなどに記入してもらいます。
原則としてお客様カードへの記入を拒否する方の内見は御断りすることになります。これにより不動産物件が犯罪に利用されることを防止しています。
チェックしなければならないのはカードを記入する際におけるペンの動きです。企業秘密なので詳しくは書けませんが、虚偽の情報を書く場合には独特の動きをすることが多いです。
AIではお客様の情報として入力されたデータを真実であるか、虚偽であるかを判断するのが難しいのではないかと思います。
それにお客様の希望は様々です。購入希望者は、ポータルサイトから物件を選ばれるとは限りません。例えば売主様の希望によりレインズ及びポータルサイトへの掲載を一切行わない物件があります。
その他にも差押登記がされて競売開始が決定している任意売却物件、心理的瑕疵、法的瑕疵がある物件があります。これらの物件の紹介は、AIでは出来ないと思います。
また、お客様から希望条件として「○○駅から徒歩10分以内にある築15年未満の戸建住宅。○○㎡以上。予算は○○○○万円以内。」等と言われた場合でも家族構成により希望される床面積が適切ではないとか、物件数が少ないエリアだと築15年未満の物件は全く存在しないものの築16年の物件であれば存在すること等があります。
このような場合、不動産の営業担当は「家族4名、大人2人・高校生1人・中学生1人で床面積○○㎡では少し窮屈だと思います。もう少し広い物件がお薦めです。予算を超えるのであれば隣町の物件もお薦めです。」とか「築15年未満の物件は存在しないのですが、築16年の物件でよろしければあります。」等と案内します。
希望の条件を不動産会社の営業担当に告げ、「要望に近い物件を探して欲しい。」と言われるお客様はとても多いです。このような場合、探索条件を不動産会社の営業担当が整理し、希望される物件を探すことになります。お客様にポータルサイトの情報を見ていただいただけで、最適な物件を探せるとは限りません。
AIで、このようなご案内は出来るでしょうか?恐らく10年後、または20年後でもできません。
物件の中には「居住中」のものがあります。売主様が現在お住まいとして利用しているのですが、売主および買主における内見の日時調整をAIのみで行えるでしょうか。お客様の中にはコンピューター操作ができない方がいらっしゃいます。不動産会社の担当者が対応しなければならない場面がとても多いと思います。
※次回の投稿に続きます。
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