「通路を拡幅する交渉をしてほしい」と頼まれても

 いわゆる旗竿地(敷地延長の土地)の所有者による相談です。

相談内容

 私が相続した都区内の旗竿地において問題が発生しています。この土地の通路部分における幅は最大で1.4mです。幅が2mに満たないので、建築基準法により土地の上にある建物の再建築ができません。

 この建物は老朽化していましたが、2011年の東日本大震災により柱や梁に大きな亀裂が入りました。いつ崩落してもおかしくないことから空き家になり、誰も住まなくなりました。

 再建築不可なので解体や再建築が行われることがなく年月が経過しました。最近、この土地と建物を私が相続で取得しました。

 老朽化が著しく、崩落寸前であることから建物の補修は考えられず、解体するしかないとの指摘を受けています。しかし、この土地は「再建築不可」なので困っています。

 相談の本題ですが、通路の隣地の方に土地の一部を譲っていただく交渉を、御社に依頼できないでしょうか。通路の幅が2mになれば、土地の価値も上がります。

※相談者のプライバシーに配慮し、一部アレンジしています。

隣地の所有者が土地の譲渡に同意することはほとんどない

 境界線に近接して隣地の建物が建っている場合、この建物を一部取り壊す必要があります。これに同意する方はほとんどいません。

 隣地の建物が境界線に近接していなくても、土地が狭くなるので現在の建物と同じ規模の建物を再建築できないことがあります。

 建物が指定建ぺい率および容積率の上限近くで建築されている場合、土地を譲渡すると建物が違法建築物と見做される恐れがあります。

 敷地の最低面積が指定されており、土地の面積が最低面積すれすれの面積である場合も問題になります。土地を隣地に譲渡すると、この土地上に建物を建築できなくなります。

 違法建築物が建つ土地、または地域指定の最低敷地面積に満たない面積の土地をローンで購入することは困難です。金融機関が融資を認めないからです。つまり売却の際に支障をきたします。

 隣地の所有者が金銭消費貸借契約に基づき金銭を借り受け、土地に担保権(抵当権や根抵当権)を設定している場合も問題です。この場合は金銭消費貸借契約を一旦合意解約し、土地面積の変更を加味して金銭消費貸借契約を新しい条件で再契約します。しかし、融資の利率が再契約時の利率に変わるので返済額が増えることがあります。また、隣地所有者の経済状態により金融機関が金銭消費貸借契約の再契約に応じないことがあります。 

 多くの場合に隣地の所有者がかなりの迷惑を被ります。このため、特に大都市では土地の譲渡に同意してくれることをほとんど期待できません。

通路の拡幅には高額な費用が発生し、かなりの日時を要する

 仮に通路の拡幅を了承してもらえた場合でも以下の費用が発生し、さらにかなりの日時を要します。

・土地の測量を行い、新しい境界を確定する費用(土地家屋調査士に対する報酬)
・隣地との境界壁を壊し、再構築する費用
・譲渡してもらう土地の代金
・不動産取得税および登録免許税
・司法書士費用(土地に担保権が設定されている場合は司法書士の対応が必要)
・土地の売買に係る仲介手数料と印紙代

・金銭消費貸借契約の合意解約および再契約に要する費用(隣地に担保権が設定されている場合)
・迷惑料
・迷惑料の算出費用(不動産鑑定士に依頼する費用)

・交渉を行う弁護士に対する報酬

 最も問題になるのは迷惑料です。金額の算定が難しく、双方の当事者が直ちに同意することはまずありません。

 この交渉は不動産会社では対応できず、不動産鑑定士および弁護士に対応してもらう事案になります。不動産会社にはこれらを行う権限が与えられていないからです。