レインズを一般に公開して欲しいという意見について(不動産売買)

2021年6月26日

不動産の解説本、雑誌記事、不動産ジャーナリストのWEBサイト等において、レインズを一般に公開して欲しいという意見が散見されます。つい最近も、有名な経済雑誌にこの意見が掲載されています。

以前の投稿に書きましたが、レインズとは宅地建物取引業の免許を受けた不動産業者(法人、個人)と金融機関のみが参照できるネットワークシステムです。意見の概要は、以下の通りです。

・レインズを一般公開し、誰でも自由にアクセスさせることにより不動産取引が活発になる。
・気に入った物件を専属専任媒介、専任媒介で扱う不動産会社を知り、そこで契約したい。
・ポータルサイトよりも多くの不動産から選べるようになる。
・成約情報を参照して相場を知りたい。

すっぽり抜け落ちている点があります。それは売主の権利と個人情報保護の要請です。

それに、レインズには公開範囲を不動産会社に限定するべき不動産情報が多く登録されていますので、一般公開を求める意見には賛同できません。以下、レインズがなぜ一般公開になじまないのかについて書くことにします。

1.レインズの一般公開は、内緒の売却を阻害する
売却を依頼される際に「情報提供は不動産会社止まりとし、ポータルサイト(Yahoo!不動産、ホームズ、アットホーム、スーモ等)には掲載しないで欲しい。」と言われることがあります。近所の方に内緒で売却することを希望されているのです。

物件情報をポータルサイトに掲載すると、不動産業者を伴わずに現地を訪問する方が必ず現れます。土曜日や日曜日になると、紙の資料やタブレット型端末を持参した複数の方が物件の周囲をうろうろ歩きます。

近所の方に見つかり「あの家は売却しようとしている」等の噂が流れる原因になります。売主の自宅を突然訪問し、大声で価格交渉を始めようとする方もいます。「今すぐ家の中を見せて欲しい。」とか「土地の大きさを測らせて欲しい。」等の無茶ぶりを発揮する方も多いです。

レインズを一般公開したら、迷惑行為を受ける売主が増えることが明らかです。

2.レインズ上の不動産情報には「調査中」等の理由により不完全なものが多い
不動産に関する広告は、一般社団法人首都圏不動産公正取引協議会等がその内容を細かく定めており、ポータルサイトに掲載される広告は、その基準を遵守することが義務づけられています。
掲載が必須の項目が多くあり、空欄にすることは出来ません。

売主様から物件の売却を依頼された場合、不動産会社は物件調査を行いますが、土地の場合には境界確定が出来ないために面積の実測が間に合わない場合があります。この場合には登記簿に登録されている面積(公簿面積)を暫定的に掲載することがあります。
また、区分マンションにおける管理費や修繕積立金の金額が明確でない場合、レインズでは空欄にして備考欄に「調査中」である旨を記載しますが、ポータルサイトの場合はそれが許されません。

つまり、レインズの情報は不完全であり、あくまでも不動産会社向けの情報です。不動産会社の担当者は、お客様に「この項目は調査中ですので、判明次第、改めてお知らせします。」などと説明します。

3.レインズには「告知事項あり」の物件が掲載されることがある
レインズには心理的瑕疵のある物件が「告知事項あり」として掲載されることがあります。ポータルサイトに掲載することは稀です。大半の売主は「告知事項あり」の文言を広告に掲載したくありません。情報の提供範囲を不動産会社に限定することを希望される方が大半なので、レインズのみに公開することになります。

通常、「告知事項あり」の物件は、心理的瑕疵は気にしないという方に紹介します。気にしないので安い物件が欲しいと言われた場合に初めて紹介しますので、積極的に広告宣伝するべき物件とは言えません。

4.レインズには「差し押さえ」をされている物件が掲載されることがある
差し押さえをされた物件は、最終的に公的機関や金融機関の判断により競売や公売になります。公売や競売を避け、より高い価格での売買を成立させる(任意売却)ため、不動産会社が売主に依頼され、公売や競売が実施される直前にレインズに掲載することがあります。

購入希望者が現れても、差し押さえを取り下げるか否かは公的機関や金融機関の判断になります。公売や競売に持ち込む方が高値で売却出来ると判断した際は、公的機関や金融機関は任意売却の申し出を断り、公売または競売が実施されます。

差し押さえを受けている物件は、売主及び買主の合意があっても必ず購入できる物件ではありません。このような物件は広告掲載に適さず、情報が提供される範囲は不動産会社に限定するべきです。

5.レインズには建物の取り壊しと再建築を前提とした物件が登録されている
朽廃が酷いために買主が建物を解体し、再建築することを前提としている物件があります。売主が、現状での引渡を希望されている場合に、このような物件が掲載されることがあります。

主に業者間で取引されることを想定してレインズに掲載しており、一般の方が購入しても手に負える物件ではないことが大半です。このような物件に関する情報は、不動産会社のみにとどめるべきだと思います。

6.専属専任媒介、専任媒介の不動産会社と契約したいという意見はおかしい
この意見を主張される方の真意は、いわゆる「抜き行為」(後述)をするためであるとしか思えません。後述しますが、なぜそこまでして「抜き行為」をしたいのかが全く理解できません。

Aが物件の紹介を不動産会社Bから受けたとします。ポータルサイトで専属専任媒介または専任媒介で受けている不動産会社Cを探し出し、そこで契約締結した場合、この行為は業界用語で「抜き行為」と言われる行為になります。

この場合、成約してAがCに仲介手数料を支払ったとしても、この物件の紹介をBがCより先に行った事実があれば、Aに物件を紹介したのはBなので、BはAに対して仲介手数料を請求できます。
Aは仲介手数料をBにもCにも支払うことになり、2倍の手数料の支払いが必要になります。
Aが仲介手数料の支払いに応じない場合、BはAに対し民事訴訟を提起することになります。

仲介手数料に関するトラブルを避けるためにも、ある不動産会社から物件の紹介を受けた場合には、その不動産会社を通して不動産を購入するようにしてください。

専属専任媒介、または専任媒介の不動産会社は売主の代理であることから、購入希望者との間に調整が必要になる場合は売主に味方します。一般の方が専属専任媒介、または専任媒介の不動産会社に赴いた場合、その後の交渉は買主に不利になりがちです。

専属専任媒介または専任媒介の不動産会社に直接相談すれば取引がスムーズに進むとか、大きな値引きを引き出せると勘違いされている方がとても多いので驚きます。実際には価格交渉すら満足にできないことが多いです。価格交渉はもちろん、要望がある場合は他の不動産会社に交渉をしてもらうのが得策です。

仲介手数料は、基本的にどこの不動産会社でも同額なので、わざわざ専属専任媒介または専任媒介の不動産会社を探して赴く理由はありません。(仲介手数料が無料または半額のところがありますが、紹介される物件数が少ないので例外です。)

7.成約価格はレインズに登録されていないことが多く、参考にならない
成約した際にはレインズに成約価格を登録することが推奨されていますが、義務ではありません。
それに成約価格は売主および買主の個人情報です。近所の不動産が売約された際に、誰でも売却価格を知ることが出来るのでは困ります。トラブルを懸念し、成約価格を登録しない不動産会社は多いです。

レインズの成約価格は価格評価の参考にならないことが多いです。売り急ぎの物件と、それ以外の物件とでは成約価格は大きく異なりますが、このあたりの事情はレインズにおける登録項目に設定されていません。また、土地の場合にはその上にある建物の状態や土地の形、傾斜の程度や前面道路の幅員により価格は変わります。

レインズに掲載されている成約価格を他の物件に当てはめることは困難であり、参考になりません。